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新スクの淵から

笹松しいたけの思想・哲学・技術・散文。

街角の電器店

 生家は青果店である。これ、一番笑うところ。隣は魚屋の倉庫である。生まれ故郷は人口1万を割った小さな街で、JRの駅と私鉄の駅があわせて3つある。主要産業は専ら観光で、でかい神社ひとつが頼みである。最近では隣町のライブイベントで宿泊施設が埋まってたいへん喜ばしいことだ。お客さんが泊まってくれるのはありがたいことです。ようこそわが町へ。ゆっくりしていってね

 さて、そんな観光の街にも日常を歩む住人が居るわけであり、今日は街角の電器店にスポットを当ててみようと思う。

 駅から商店街を通り、旧町内を流れる川を、郵便番号が減る方向へ渡り、南に進路を変えると、信号機のある三叉路がある。その一角にとある電器店がある。わが生家では昔からお世話になっていて、しばしばうちで果物やらなんやらをお買い上げ頂くこともある。持ちつ持たれつの関係である。家電関係で困ったら電話一本でその日のうちに修理か買い替えかを判断してくれて、買い換える品物までお任せの昔から街にある電気店である。

 あるとき生家の炊飯器がめげた*1のだ。幸いにして持ち運べるサイズの家電であるから、先ほどの電器店に持ち込む。すると「ご主人」「娘さん」がでてきて、そしたら買い換えましょうかと、店頭の1升炊き炊飯器の見積もりを始める。すると、買い物に出ていた「電器屋の奥さん」が帰ってきた。私の姿と見積もりされている店頭の炊飯器を見比べて言う。

「笹松さんになんでこんなに安いんを売りよんな!!!失礼しました!!!これがええぶんや!これがええ!」

 と、言うが早いか、店の奥から象印の、店頭にあった炊飯器より、2.5倍高い品物を抱えて出てくる。アッハイ。さすがにそこまでされては買わざるを得まい。商売が上手である。一本どころか五本ぐらい取られた。ご飯は炊けるようになった。


 人は親切に弱い。望むと望まざるとに関わらず、悪意のない押し売りに遭うと拒めないものなのだ。ここでNoと言える男にならないとまったく望まないブスに交際を申し込まれても断われないのだ。自分の中に確固とした価値観を持っていないと20世紀から抜け出せない。


 美人に押し売りされると拒めないから鍋や壺が捗る。


 来世は美人を3人セットで押し売りされたい。

*1:讃岐弁で壊れた、の意。「めげた」「めげる」「めいでしもうた」のように活用する。