新スクの淵から

笹松しいたけの思想・哲学・技術・散文。

成田空港で寿司を食う

 千葉の奥に、三里塚という地名がある。御料牧場を空港にしようとして、足りない土地を買うときにうっかり農家と中核派がくっついて厄介なことになっている成田空港のあたりの地名だ。いつのまにやら新東京国際空港とは名乗らなくなり、空港公団も民営化でNAAになり*1、京成スカイアクセスも開業し、都心部から1,000円のバスまで出るようになったが誘導路はクネクネしていて敷地に囲まれた農地や農家が点在する楽しい空港である。今日は、そんな成田空港でお寿司を食べる話をしようと思う。

 

 さて、LCCを使うとなるとなかなか第1ターミナルには縁がない。自動的に第2ターミナルのお話となるから承知されたい。なお、第3ターミナルができてから成田空港へ行ったことはない。成田空港の第2ターミナルは(当時)1階がLCCの乗り場と国際線の到着ロビーになっていた。国際線の到着ロビーというのは「感動の再開」の舞台である。海外から帰ってきた恋人と抱き合うようなシーンは感動を誘う。間違っても訴状なんかを持って迷惑厄介なことをするようなシーンではないのだが、ミスマッチの美ってのもあるよね。恋人が抱き合ってる横で訴状を渡される。成田は今日も眠れない。

 

 で、2階だか3階だかに上がるとよくテレビで見る感じの受付カウンターが島状になってて、海外の有名な航空会社がいっぱい並んで待っている。こっちはとんと縁がない。今回の話の舞台となる寿司屋はここからさらに一階層上のお店とレストランが並ぶあたりである。「第2ターミナル本館4F」のお話です。

 

 第2ターミナル本館4Fにはさまざまなお店が並んでおり、保安検査前にお食事やお買い物をするのに最適な場所となっております(営業スマイル)。本数が少なくて雑な成田線快速電車エアポート成田で空港へ来て、時間が余ったらこのあたりで軽くご飯にすると良いでしょう。引越の手続きがスムーズに終わってしまって退去して時間がクッソ余った筆者はここで寿司を食おうと考えました。したら回らない寿司屋と回る寿司屋が両方あるのです。というか回らない寿司屋3軒ぐらいないっけか。ニホンの思い出に寿司くいねぇ。

 

 でまぁ、回らない寿司を食うほどでもねぇなぁってことで4階の隅っこにある回転寿司に入るわけです。1人で。そしたらスっと入れてすぐにさあ食おうかと値段を見てびっくり仰天。創作寿司みたいな見た目がお城っぽいやつしか流れてこない。なんだここは。一皿630円?勘弁勘弁。あの130円とかいう地味な皿はどうしたよ。しまった。ちょっと後悔。そんな状態でメニューを見ると普通にマグロやらサービストロやら、その他の魚も普通に130円で書いてある。あっれー……?と思いながら注文をすると嫌な顔ひとつされずに130円のネタがどんどん出てくる。なんだ普通じゃねぇか。なんなんだ。……と思って寿司をつまむこと20分。レジに近い席なので、外人さんと日本人で会計金額が5~10倍違うことに気づいてしまった。ははあ、外人さんが好きそうなお城みたいな創作寿司が恐ろしい値段で、日本人が普通に食べる寿司が130円なんだ……。なるほどなぁ、地の利を活かして売上を最大化するとこういう戦略になるのか。なるほど。だって外人さん2人組が2万とか払ってんスよ。ワイ貧乏人、3,000円未満。お味はふつう。庶民の舌だから酢飯に生の魚載ってて醤油つけて食うと大概うまい。成田まで来て寿司かよって言われたらそれまでだけど、じゃあ他に何を食えばいいんだい。中核派まんじゅうでも売ってるのかい彼の地では。

 

 中核派まんじゅうは売っていないけれど、その4Fにある本屋さんは改造社書店さんです。ここはもともと出版社で、戦時中もマルクスやら労働者のアレソレやら、左側の思想の出版をしていて一度お取り潰しされているという由緒正しき本屋さんなのです。空港ターミナルに入居しているのだからもう過激な成分は残っていないのだろうけれど、ここが三里塚なんだなぁという風味がして私は好きです。長いフライトで活字がほしいなぁとお考えの諸氏は第2ターミナル4Fの改造社書店へどうぞ。

 

 おっぱいばいんばいんの外人さんが感動の再開で抱き合っておうおうこれからそのままホテル直行かって時にルンペンみたいな格好で回転寿司食べに行くのが最高なんですけれども、第3ターミナルに回転寿司屋はあるんでしょうか。今度行ったら探してみようね。

 

 ……ちなみに、徹夜明けで成田空港の回転寿司に行ったら、眠気からか、お茶を盛大にぶっこぼして隣のサラリーマンにぶちまけてしまったことがあります。幸いにして、ぬるかったので大事には至らず、そのうえスーツのクリーニング代も固辞されて取ってくれなかったので、もし今後の人生で見知らぬ他人に飲み物をぶちまけられてもクリーニング代を請求しないことにしました。あの日のよき隣人に幸あれ。

 

 それでも僕は他人の金で腹一杯寿司を食べたい。

*1:と、書いたものの、総裁からツッコミが入り、新東京国際空港公団時代から略称はNAAだったらしい