新スクの淵から

笹松しいたけの思想・哲学・技術・散文。

西村賢太『苦役列車』

 平素より自ら身銭を切って借りている部屋が文庫本で占領されるのを厭がってここ数年はなるべくKindleで本を買っていた私が久方ぶりに本屋で文庫本を買ってしまった。

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 なんでも「ナカイの窓」という番組で西村賢太石田衣良らと出演し、過激な発言をしたそうで、webにそういう記事が載っていて会社で昼休みに読んだら「これは今日読むしかねえ!苦役列車!西村!新潮文庫!」とだけメモを取り、残業社畜は閉店直前の書店へと駆け込んだ。

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 なんでもこれが私小説だというから驚きである。ここまでしっかりと人生のレールを敷いてトコトコと走ってきたような私めには日雇い労働で生計を立てる主人公(≒筆者)のような生き方が「こわい」のだ。人生のレールとは言ってもせいぜいが37 kgレールで最高時速65 kmのようなレベルであり、東大卒の官僚のように60 kgレール上を高速鉄道がヒュンヒュン行き交うような人生のレールではないのが悲しいところだ。適材適所の精神で鉄道不毛地帯に列車を走らせよう。どうでもいいけど新幹線というのは原則として上下線間に障害物を置かないのだそうな。三島駅とか名古屋の車庫線みたいなのは例外なのであろう。

 

 さて、本文の内容に触れるとネタバレになってしまうしなにより400円の薄い文庫であるから買って欲しいしなんなら貸す。では何に触れたいかというと巻末の解説である。解説者は石原慎太郎。そう、我々きもおたく共からエロマンガの絵に描いたおまんこすらも召し上げた*1憎き元東京都知事だ。ほんのちょっぴり本文内容に触れるが「"こんな"主人公でも女と同棲していた時期があって"本番ありの安買淫"に通っている」のだから実在おまんこ派の石原慎太郎が解説をするのは理にかなっているのかもしれない。なに、同棲イコール性行為というのはいささか短絡すぎやしねえかって?知り合いの同棲宅、いわゆる愛の巣をこれまで複数訪問した際には例外なく無造作に避妊具の紙箱が転がっていたし、あんまり短絡的でもないだろう。私としては経口避妊薬を使っているから避妊具の紙箱が転がっていないような"愛の巣"とやらもお目にかかってみたいところではあるが。この中出しキチガイめ、このこの、と糾弾する用意はある。無論このブログはフィクションである。フィクションでもモデル問題は存在するから訴えられないラインを見極めなければならない。

 

 閑話休題。石原の慎ちゃんが書いた本書の解説である。解説にはこうある。

 

 西村氏の場合、彼の作品の根底を支えている貧困という主題が、氏が売れっ子になっていく過程で、つまり裕福になることで阻害され、作品の魅力を殺いでかかる危うさが待ち受けているかも知れない。

 

 ははあ仰るとおりで。「つまり」まで書いて補足してあって誠に丁寧な解説文だ。石原慎太郎は憎いが書く文章はまともかよ。「坊主憎いけど袈裟はナイス」の典型例だ。絵に描いたおまんこを召し上げた悪行は赦さぬが、人物そのものに対する評価は改めようかと思う。罪を憎んで人を憎まず。

 

 次は石田衣良の『池袋ウエストゲートパーク』が読みたい。いや、『夜の桃』とか『4TEEN』とかは読んだけどさ。石田衣良作品に登場する女性は雌の香りがして好きなのだ。

 

 退勤後に本屋さん、寄りませんか。

*1:出版業界の自主規制が強くなってエロ漫画の修正がキツくなった。絵なのに。膣内断面図は性器じゃなくて内臓だから無修正でええやろ。