成田空港に閉じ込められた話(2019年9月)
愉快な友人たちにより台湾に拉致られた一件……から時を経ること3ヶ月、2019年9月のお話です。
「どうせ台湾はしょっちゅう行くことになるから」と台湾元を多めに両替したため余っており、前回「拉致」の際は台北しか見て回っていないからと、台中、彰化、そこから夜行の莒光号で台東、少し引き返して花蓮、池上、台東からは旧型車両「普快車」で……と、台湾をほぼ環島するような数日間の旅行を楽しみ(またあっちで能登屋に会い)、高雄からバニラエアの成田行きに乗って帰国したのでした。
ところが。
のちに「令和元年房総半島台風」と名付けられる2019年台風15号が千葉県内を中心に大暴れしたため、高雄で飛行機に乗る前から同行の友人と「どうなってるかなあ」という話をしていました。
LCCであるところのバニアエア130便機内では、インターネット接続ができないため、ひとまず寝ておくことに。数時間後、無事に成田空港へ着陸しました。ええ、着陸は、できました。なにしろ、台風は去った後です。風が吹いていなければ、飛行機は着陸することはできます。
タラップを降り、機外に出たため、ランプバスに揺られながら情報収集をします。
死ィ〜〜〜〜〜!!!! #台鉄冷蔵庫 pic.twitter.com/fvvE6PFYMt
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さて、飯でも食うしかねえな…… #台鉄冷蔵庫 pic.twitter.com/sMMABTpBqq
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ひとまず、鉄道も道路も真っ当な経路は全て断たれています。ランプバスから第3ターミナルに吐き出され、とりあえず高速バスの切符売り場を30秒冷やかし(全便運休と掲げられて開店休業)てから、フードコートに人数分の座席を確保しました。
ここ(フードコート)をキャンプ地とする!!! #台鉄冷蔵庫 pic.twitter.com/65kkcKWRTu
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籠城モード #台鉄冷蔵庫 pic.twitter.com/JCRZWWVqqQ
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やけくそ成田三タミ籠城生活ぜんぶ虻のせいだ会場です #台鉄冷蔵庫 pic.twitter.com/zTVHIu6XTp
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紛れもなく異常事態であるのを良いことに、とりあえずフードコートを端から端まで何かしら順番に注文していきます。店が営業していて、食い物が供される限り我々は客です。……とはいえ、交通が麻痺しています。恐らく遠くない将来、新しく出勤してくる店舗スタッフが不足して閉店することが予想されます。現に、うどん屋は午後一番で店を閉めていました。
そうこうしていると、これまた偶然ですが、関空からの国内線に乗っていた別の友人がひとり、我々のキャンプ・フードコートに合流しました。そのあたりで、JRは終日運休と、当日中の復旧を断念したようです。
JR、白旗!w #台鉄冷蔵庫 pic.twitter.com/aPVmAjdvOj
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さて、我々は海外旅行帰りで疲れています。どういうわけだか奇特な友人らと旅行していますから「異常事態の空港を見物してくる」と、ターミナル間連絡バスに5人中2人が吸い込まれていきました。元気だな。
残り3人は荷物番としてフードコートに残りました。
比較的現実的なソリューションですがとりあえず待ちで #台鉄冷蔵庫 pic.twitter.com/HJREP0ia9z
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さて、現実的なソリューションとして、成田空港から約 20 km先の印旛日本医大駅からは電車が動いているという情報が入りました。
同じ頃、ターミナル間連絡バスで野次馬に出た斥候部隊から「タクシー待ちの行列は各ターミナル推定約800人」という絶望的な知らせが入ります。
この時点で、終日運休のJRは見切られ、いつ復旧するかわからない京成線の改札には大量の人集り、タクシーは無限に待つであろう、高速バスは全便運休と、いうことが分かります。
戻ってきた斥候部隊とともに、3人で文殊の知恵ならば、5人も居ればふげん&もんじゅ&チェルノブイリぐらいのパワーがありますので、現実的な解として、京成線の運転再開を待つのは分が悪く、下手したら今日中に帰れないかもしれない、タクシーも望み薄、どうにか迎えに来てくれそうな友人に自家用車を頼もう、という結論に至りました。
住居のこともありますので詳細は伏せますが、方面別に2人の友人が、それぞれクルマを出して迎えに来てくれる事になりました。ところが、この道路事情です。空港内の道路も基本的には大パニックです。どこかで落ち着いてクルマに待ってもらえるポイントは……と考えていると、斥候部隊がこともなげに「東成田駅のロータリーがエアポケットのように静かで誰も居なかった」というのです。それぞれ自動車を出してくれた友人に、東成田駅ロータリーを指示します。
東成田駅とは、歴史的な経緯から当初空港ターミナル地下に乗り入れできなかった京成電車が作った駅で、今では京成電鉄の路線網の枝の端のようになっている支線の駅です。そういうわけで、第1ターミナルと第2ターミナルの中間地点ぐらい、空港敷地と言えるのかどうか微妙なところの地下に埋まっています。なお、もちろん当然ながら、この日は東成田駅に来る電車も全て運休していました。動いていたら流石にもっと人が居たはずです。
「ああ……台北のセブンイレブンで80元出してキーボード用の単4電池買ったのに原稿やんなかったなあって思ってたのに伏線を回収してしまった……」
— 笹松しいたけ🌉1日目南め-16b (@s_sasamatsu) 2019年9月9日
「要らん伏線を張るな」
「原稿やりましゅ……」
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クルマの到着まで原稿をやっていました。
しばらくしてクルマが到着したと連絡がありました。例の、20キロ先の印旛日本医大駅行きのクルマです。第3ターミナルのフードコートから、乗車の2名、東成田駅のロータリーへ向けて移動を開始します。別の車の到着を待っている3人とはここで一旦お別れです。
ところで。我々は斥候2名を除いてずっとフードコートに居たわけなのですが、成田空港第3ターミナルから、第2ターミナルの改札脇を通り、ポケモンのハナダ~クチバ間を思わせるような地下通路を通って東成田駅へ向かうわけです。……そこには地獄がありました。終日運休のJRを諦めたものの、京成線の運転再開を待つ人、人、人の山が、地下の改札から一階の国際線到着出口までモリっと数千人、何時間立ち尽くしていたのでしょうか、まるでゾンビの群れのようにも見えました。うわあ……。
多少の体重増加と引き換えに、方向性が定まるまでフードコートで籠城しているのは正解だったようです……。念の為に弁解すると、第3ターミナルのフードコートは空席が十分残っていました。事情が事情なだけに、相席も許容するつもりでしたが、相席をせずに空席が散見される程度の混雑率でした。
さて、困りました。このゾンビの群れを、旅行荷物を抱えてかき分けかき分け、東成田駅を目指さねばなりません。
どういう経路で移動したのか正確に思い出すのも難しいのですが、第2ターミナル1階で、地下に降りる階段をゾンビが埋めている→ひとまず2階に上がる→道路を渡った先の駐車場に入る→地下に潜ると第2ターミナル駅が見える→「東成田駅への連絡通路」まではゾンビが群れになっておらず通行可能、東成田駅へ、という手順だったように思います。東成田駅で待っていてくれた友人は結構な時間おまたせしてしまいましたが、まさか人が多すぎてゾンビのようになっており、まっすぐ東成田駅へ向かえなくなっているとは思わず……。
ほうほうとたどり着いた東成田駅(※その日は列車が来ていない)で、すぐにでもクルマに乗ってしまいたい気持ちを抑え、この先の道路事情が全く読めないためトイレを借り、改めてクルマで迎えに来てくれた友人と会うことができました。まず丁重に礼を述べ、印旛日本医大駅までの運転をお願いしました。
ところで……成田市内を含め千葉県内は広範囲で停電していました。道路信号も例外ではありません。友人のクルマも慎重に進んでいきます。途中、倒木があり野良の片側交互通行になっていたり、消灯している信号機に警察官が到着しておらず、危なっかしい譲り合い交通が行われていたりと、多少の混乱は見られました。道中、しびれをきらしたのか、徒歩で空港からの脱出を試みたものの、力尽きてスーツケースに座ってうなだれていた旅団も複数見られましたが……。イオンモール成田には明かりが灯り、北千葉道路が4車線になるところまで来るとスムーズに走行できるようになりました。
ついに、我々を乗せた友人のクルマは、北総線印旛日本医大駅に到着しました。ちょうどタイミング良く印旛日本医大止まりの電車が引き上げ線に入ったところで、「急行|羽田空港」の表示も頼もしくゆっくりと走行していました。帰れるぞ、これで我々は自宅に帰れるぞと大変感動したことを覚えています。
そこからはもう何も特記することもなく、途中で友人と別れ、淡々と走る列車を乗り継いで無事に自宅へ到着することができました。
台湾へ、一度目は拉致られ、二度目は空港に閉じ込められ、さあ三度目は……という状態で今のような新型感染症により、事実上趣味での台湾旅行が封じられたような格好になってしまいました。いつかはトラブルのない海外旅行を経験してみたいものです。
今回も前回も、旅行の主要登場人物は全て愉快な男ばかりですので、楽しいことは楽しいですけれど、いつかは素敵な女性と南の島へ旅立ってみたいものです。