新スクの淵から

笹松しいたけの思想・哲学・技術・散文。

#C91感想 『NAVAL Trading Co.,Ltd FLAGMENTS』(てぃーえー/CASTLEPOINT)

 皆様は「キャラ」というものをどのように認識されているだろうか。凡そ一般的なところであると、長期連載されているような作品の主人公クラスであれば「ああ言えばこう返すであろう」と想像がつくだろう。それがキャラの認識であるとして概ね差し支えないように思う。そう、キャラとは関数なのだ。変数に数値を代入すると幾ばくかの答えを吐き出す。とはいえ、時間と場所とその他複数のパラメータをもった関数であるから「ああ言えばこう言う」と揶揄される、とある宗教法人の代表のようにすんなり(?)いかないのが対人関係の面白いところである、と思う。ところで、「関数」と申し上げたが、いにしえの時代には「函数」という字が使われていたのだ。「はこ(函)の数」と書いて函数。こちらのほうが意味合いに沿っているだろう。身近にもあるでしょう。小銭を投入してボタンを押すとジュースという出力が得られる自動販売機。宛先という変数を書いて「投函」すると、住所という文字列に変換されて届けられるポスト。何かしらの入力を与えると答えを吐き出す「函」という意味を持つこの漢字も、今では常用漢字から外されたために「関数」と常用漢字を当て直されたりしてはいるが、地名人名を含めた一部の言葉ではまだ生き残っているのがお分かりいただけるだろう。先程挙げた「投函」のほか、「函南」「函館」などの地名にも登場する。表意文字とはいえ、「常用漢字」というルールに従って二軍で奮闘する彼らにも時々スポットライトが当たるといいなあ。

 

 とまあ小話はさておき。人格性格ベッド上の反応その他を「時間変数を含む関数である」などと論じるとこの野郎は人の心もないのか、これだから理系の大学出は、だからオウム真理教事件がうんぬんかんぬんと、変なところからツッコミが入りそうなのでぼちぼちやめておくとして、本題に入ろう。ここのところ続いているコミケット91の「戦利品」を入力して私が感想を「出力」するこのシリーズの流れである。今日の御本はサークル「CASTLEPOINT」のC91新刊である。

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 以下例によって内容に触れるので、それでも構わなければスクロールして着いてきて頂こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 001-002ときて今回は短編集であった。基本的には摩耶様にベタ惚れのアタマが忌んどる提督さんが呉鎮守府船橋"支店"めいたところで商社をやるお話である。ドロップ艦のキャラが荒くれ者というかなんというか、だいぶロアナプラ*1めいた思想が流れていて大変愉快である。これらを部下として束ねあげ、商社としての鎮守府を円滑に運営するのは大変ホネなはずなのだが、アタマが忌んどる提督さんは困った顔やら胃が痛そうな顔やら一つせずにお仕事を進める。どうせ両思いなんだから摩耶とくっつけ早くしろとせっつかれるにも関わらず飄々と男女の関係になるのを避ける提督が見ものである。それでいて安価に粗製乱造されている寸止め系全年齢作品のような趣がまったく感じられないのは優秀な商社マンが成せる技か。どうせ提督は生身の人間なのだから、ラム酒を瓶で無理やり飲ませれば動かなくなって好き放題できるにも関わらずそういう手段に出ないという点でも、艦娘と提督の信頼関係が見て取れる。……最も、上司として登場する大和とオッサンはそのあたりがガバガバで、主人公からしたら最悪のコンビであるというのが大変良く分かる。こいつら普通に強い酒口移ししてその場でおっぱじめても違和感ない。

 

 とはいえ頭のイカれたキャラばかりかと思えば常識的な、他の作品に顔を出しても違和感のないキャラも登場する。今作の場合は野分だ。建造艦で、「本部」にて「お勉強」して配属された彼女からは荒くれ者のエキスが感じられないどころか、そもそも頭のイカれた状況に適応しかねているように思う。というか常にイチャついてる舞風のほうがイカれてますねこれは。ベッドヤクザの香りがします。なんだろう。誰のせいかは知らないけれど、野分が受けで舞風がベッドヤクザみたいな、そういうキャラが脳みそに深く根付いているのは何が原因なのだろうか。

 

 そして何より時間軸。作中の時間はコミックマーケット91の1日目前後なのである。あな恐ろしや。あの高雄コスは実はトレ鎮のクソイカれた高雄だったりはしやしませんか。というか本作が頒布されていたサークルスペースで狼藉をはたらくおじさんはその場で射殺されていたのではなかろうか。あな恐ろしや。私はJAL派。

 

 地球上で一番の叡智を誇るのが人間である、という不遜な認識は少々改めるべく、本作に出てくるような「少々イカれた」艦娘が世を席巻するのも悪くないかもしれませんな。

 

 いい感じに酔ってイカれた大和ちゃんに押し倒されてえな。

*1:広江礼威ブラック・ラグーン』の舞台。タイに存在する架空の街。銃弾が飛び交うためバーのマスターがカウンターを防弾にしたりしている。