新スクの淵から

笹松しいたけの思想・哲学・技術・散文。

958M

 東海道本線豊橋駅14:42発上り 静岡方面の興津行き普通列車。それが958Mである。313系2500番台による3両編成。5分ぐらいの接続で大垣からの新快速とつながるので、18きっぷシーズンは混雑するから1本あとの掛川行きに乗ったほうが楽だ。あっちは311系とかの転換クロスシートが来るし。

 

 5年前の今日、私はこの958M列車に乗っていた。なんのことはない、実家のある香川県から千葉へ、大学入試に向かっていたのだ。普通列車で。青春18きっぷで。とんだアホウである。先述の通り混む列車だから席にありつけず、運転台直後に陣取った。「かぶりつき」と呼ばれる場所だなあ。寡黙にじっと、どこか遠い目をして線路の遠くを見つめる。乗り換えで下車する静岡への道のり。注意深く車内を観察すれば浜松あたりで座ってる人が降りて空席にありつけるかなあと考えつつ、列車は発車した。左手に豊橋鉄道渥美線、右手に新幹線を望みつつ列車は東を目指す。二川に時間通り到着し、ドアがゆるゆると開いて閉まる。昼下がりの気だるげな空気の下、列車は110 km/hで快調に、次の停車駅・新所原を目指す。

 

 新所原に到着し、同じようにドアが開く。313系に搭載された乗降促進のチャイムが鳴……らない。ドアが閉まらない。列車は出ない。列車無線はひたすら駅間を運転中の、別の列車に対して即時の停車を要求している。何なんだ、何が起こった。車内の乗客が不審に思い始めたころ、車掌からアナウンスが入る。「ただいま地震が発生したため、安全確認をしております」なるほど。なあんだ、だったらば、見える景色に異常はないし、すぐに運転を再開するだろう。静岡での接続が狂わなければいいなあ。そう、その時は本当にそう思っていたのだ。本当に。

 

 手元のスマートフォンでtwiccaを立ち上げ、タイムラインを更新する。すると、宮城県庁の中の様子、本棚がぶっ倒れて書類が散乱している画像がアップされていた。止まる思考。震度7という文字を脳が理解できない。震度7は青天井であるという知識、そこから想起されるのは「タダ事ではない」という1点。なんじゃそれは。なぜ宮城の地震で静岡の東海道本線が止まっているのだ。東京は、千葉はどうなっているのだ。

 

 早期の運転再開は無理と判断し、携帯で電話をかける。すると繋がらない。しまった、出遅れた。転進。駅前に駆ける。改札にきっぷを提示しようとするが、改札氏はいいから通れとフリーパス状態。なんたる異常事態。目指すは公衆電話。10円玉を手持ちすべて投入。0877から始まる慣れ親しんだ電話番号をダイヤル。3コールで母が出る。現在地と状況を伝えると、香川のテレビジョンではちょうど津波が街を襲うシーンの中継だという。津波???街を????一体何が起きているのだ????????明日の入試までに西千葉へ辿り着けるのか?ひとまず無事であると連絡し、駅へ戻る。

 

 乗ってきた313系電車は1ミリも動かずそこにいた。東海道本線は相変わらず運転を見合わせた。結果論から行くと東海道本線はこのあと数日止まっていたようだ。日頃の行いと持ち前の運のよさか、ここが新所原であることが幸いし、接続私鉄である天竜浜名湖鉄道はなんと定時で発車するという。もちろん手持ちの青春18きっぷでは乗車できないので、掛川までのきっぷを買い求める。不安を抱えつつ単行ディーゼルカー車中の人となる。浜名湖畔に差し掛かり、みかん産地として名高い三ヶ日にさしかかったあたりで父親から携帯に電話がかかってきた。よくつながったな。よくわからないけれど掛川まで出られると伝える。いつもなら東海道本線浜名湖の南端、弁天島あたりを経由して1時間で掛川へ着くところを、2倍の時間をかけて、ディーゼルカーは夕刻の掛川駅へと滑りこんだ。

 

 もはや在来線を諦めてはいたが、JRの改札まで移動したところ、新幹線も動いていないという。駅から見えるホテルは満室だ。万策尽きた。そこへまた父から電話がかかってくる。万策尽きたと言う。そうするともうホテルを押えてあるから「たいほうイン」でチェックインしろと、電話越しの父親は言うのである。なんだこの有能な人間は。私はこれほど有能な人間を父親にした覚えはないぞ。まあ、実にありがたいことなのでその日はとっととホテルに入って寝滅ぶことにした。時間通り新幹線が動けば、翌朝1番の浜松発東京行きで入試には間に合う。こんな状況でそんな綱渡りに縋るなんて。精神状態は半ばヤケクソである。それでも人間眠れるものなのである。

 

 あとから聞いた話では、担任教諭がいちばん心配してくれていたらしい。国公立大学の後期試験まで進路を引っ張って引っ張って、最後の最後でドカンと大震災の爆心地に突っ込んでいった数名の安否確認に奔走したそうだ。ただでさえ心配かけてんのに、ご迷惑にターボがかかる鈍行受験生はノリで汽車乗ってよくわからん駅で泊まってるのだからウケる。いや笑い事ではない。

 

 結局入試は中止となり、翌朝の新幹線で四国へ帰った。試験自体はなくなったものの、合否判定はセンター試験の受験票下半分を小さく切ったしょっぼい伝票でなされたようだ。なんてこったい。

 

 あれから5年、いまでは958Mに乗ることはない。だって、1本あとの掛川行きのほうが快適だし、もっと言えば、お金を払って豊橋からひかり号に乗ってしまったほうがラクなのだ。

 

 生きてるだけでまるもうけ。

しょうてんがい

 お昼ごろ、埼玉の方から「香川のアーケード商店街事情と女子高生制服事情を書いてくれ」と頼まれた気がするので独断と偏見で書く。

 

 まず商店街を2つに分ける。生きてるか死んでるかだ。

 

☆生きてる

高松の丸亀町商店街と、それに連なる周辺のアーケード商店街

 

★死んでる

上記以外ぜんぶ

 

 つまるところ高松の中心市街地、特に琴電片原町駅から三井住友銀行へ向かって歩いていく途中の、紀伊國屋書店があるあたり、あのへんが一番HOTになっていて、そこからだんだん南へ向かって行くとだんだん人通りが少なくなっていく。アニメイトへ到達する頃には一般的な寂れ気味の商店街になってしまい、そこから琴電瓦町駅へと続くトキワ街はもはや死にかけである。シャッター閉まってるかよく分からない行政の手が入ってそうなそうでもないようなまちおこし施設になってるか、ほそぼそと営業しているか。もともとはアニメイトの近所に映画館*1があったので賑わっていたが、モータリゼーションの発達に抗えず、閉館となって以来は最早やべえのである。どれぐらいやべえかというと昨今ではなくまだブイブイ言わせてた頃のマクドナルドが閉店するぐらいやべえのである。アニメイトの向かいはかつてマクドナルドであった。

 

 死んでる商店街、丸亀とか琴平とか、一説によると坂出のほうがやべえという話もあるがまあいい。琴平も丸亀も一部アーケードを撤去する程度に商店街が死んでいる。あまり死んでる死んでる言っちゃ失礼だから元気にやってるお店も紹介せねばなるまい。

 

 丸亀の商店街には「きらく」というラーメン屋がある。富屋町にあったが、アーケードが撤去されたので通町に移転したらしい。香川というとうどんキチガイな印象ばかりを植え付けられる気がするが、無論ラーメン店もあるから安心して欲しい。「うまいぶん 400円」「ええぶん 500円」「とりめし 350円」「ぎょうざ 350円」のシンプルなメニューで営業中。

 

 琴平の商店街には有名な肉屋が2軒ある。ひとつは平岡精肉店。新町商店街が終わって金倉川を渡る橋のたもとでコロッケやメンチカツを売っているお店だ。土日ともなると行列ができていて地元民としては驚くばかりである。揚げたてで美味しいのは確かだし、店舗から開けられた窓から買えるという昭和スタイルも人気の秘密か。

 

 もう一軒は新町商店街の中ほどにある西山食肉店。こちらは焼豚が有名だ。焼豚というとチャーシューの印象が強いけれど、ここの焼豚は特製のタレがかかっており、冷たいまま切って食卓に並べるのが琴平流。真空パックによる地方発送も承っている人気の品だ。

 

 まんじゅう屋ももちろんある。販路が広くないためここでしか食べられない、「へんこつまんじゅう」のお店、へんこつ屋も新町商店街にある。こしあん派の皆様はぜひお越しください。「へんこつ」とは、讃岐弁で「偏屈、がんこ者」みたいな意味であり、まあコダワリのまんじゅうを出します、くらいのニュアンスで取っていただいたらどうだろうか。

 

 

 女子高生の制服事情?香川はセーラー服不毛地帯だから坂出高校以外制服かわいいところないよ?以上だよ?香川おいで?うどん以外も案内するぜ?

 

 

 地元帰っても子宮のアテがないから帰らないんだってば。

*1:高松東宝1・2・3

メロンソーダフロート

 知ってか知らずか私の生まれはあのうどんキチガイ国家であるところの香川県である。県都・高松には9番乗り場まである立派な頭端式のヨーロッパっぽいデカい駅と、瀬戸内海の島々をつなぐ船が行き来する立派な港、三大都市銀行と地方銀行第二地方銀行本店が並ぶメインの通り、そして立派にILSの設備があるジェット機対応の空港がある。3レターコードがTAKとなる、高松空港のことである。

 

 かれこれ生まれて20と数年、高松空港から飛んだ回数はもはや数えられるものではなく。早めに空港についたら2階の喫茶でメロンソーダフロートを頼むのがもはや定番となってしまったあの頃が懐かしい。今でもあるのだろうかメロンソーダフロート。メロンソーダのあの無果汁でサイコな緑色がたまらなく好きだ。ドリンクバーがあると無駄にメロンソーダばっかり飲んでいる。なんでだろうね。自分ごのみの美少女を謎の研究施設でクローン量産してる感じの培養液っぽい色をしていて自分の中のマッドな心を満たしてくれるからだろうか。それとも単にスーパーで売っていなくて非日常的な飲み物だから、だろうか。

 

 いつになったら美少女クローンが培養液で食べごろまで成長して出荷されてクロネコでおうちに届くようになるのだろうかとみなさまは考えたことがあるだろうか。その場合は脳みそが18歳相当でも中身が空っぽなので18歳児(0歳児)みたいなことになりそうだけれど、未来の科学者はきっと性格まで綺麗にあなたの望む18歳に仕立て上げて出荷してくれることだろう。よろしく未来の科学者たちよ。アマゾンで美少女クローンを1500ドルぐらいでポチっとBuy nowできるようになってくれ。

 

 そういう考えと脳内でせめぎあうのが人権屋の邪魔である。生命体である以上クローンにうるさい団体がでてくるのは間違いない。そういううるさい人権屋に「くらえ!非モテビーム!!!!」人権屋は死ぬ。いや死なない。何度でもよみがえる。うざったい。そういう脳内人権屋の邪魔が邪魔なので(頭痛が痛い)、別方向から幸せへのアプローチ。そう、美少女ロボの出番だ。あくまで無機物だし生命体でないから子宮必死系の子孫残したくて残したくてしょーがない遡上中の鮭みたいな諸兄には見向きもされないだろうけれど、ディストピアンな未来に絶望した諸氏にはバカ売れ大ヒット間違いなしだ。てか女子高生型のロボットだったら成人男性だけじゃなくてくたびれたOLにも子や孫に恵まれなかった人々にも大ヒットだ。俺が未来の億万長者だ。特許取ろう。

 

 現実には「フレーム問題」というのが存在するので、女子高生型ロボットというのはかなりハードルの高い問題なのだ。したがってここに解決策を講じる。……そう。脳みそだけ人間のものを取り出して培養液にプカプカさせて女子高生型ロボットに搭載します(!)。なんちゅうマッドな解決方法。世には脳死という概念があるのだから、逆に身体がめっきょめきょでも脳みそはオールグリーンというケースだってあるだろうから、そういう脳みそを取り出して培養液にプカプカさせて、女子高生っぽい記憶を植え付けてロボットに搭載して出荷。ふははは、察しのいいガキは嫌いだよな感じのフレーム問題を解決した女子高生ロボが市場に出回る。しばらくは商売的に安泰だろうけれど、そのうちどんな機械でも分解しないと気が済まないタイプに目をつけられて生脳みそ搭載がバレてしまう。参った。どうしよう。

 

 女子高生型ロボと間違えて生身の女子高生にうっかり種付けしたい。

街に笑顔を

 今日のタイトルは地元の信用金庫によく書かれているフレーズを頂戴した。信用金庫は街の毛細血管である。商店街の吹けば飛ぶようなちいさいお店に運転資金を融資する。ついでに外交員の新人は「使わんでもええきん!カードが来たらハサミ入れて支店来てくれてええきん!」とカードローン口座のノルマをなんとかと、その商店主とその家族らにお願いして回る。時々そうやって作ってもらったカードローン口座をルーズな人が枠パンパンまで借りてみたりして、2月と8月に先述の外交員さんに「笹松さん、すんません利子がついて枠超えちゃうんで3万だけ入れてもらえますか」とか言われるようになる。良い子はノルマに付き合って作ってあげたカードローン口座からお金を出しちゃだめだぞう。0円スタートでマイナス円しか記録されない恐怖の通帳がこの世には存在するのだ。解約するときに耳を揃えて返済してようやく0円になる。穴を掘って埋めるかのようだ。どこぞの銀行の鉄道模型ローンなんてのも、利子が高くて実態はカードローン口座に過ぎないわけであるから油断は禁物だ。

 

 街に笑顔はどこ行った。結局のところ信用金庫も職員に給料を支払わねばならず、今では株価に合わせて乱高下する投資信託を窓口で販売し、定期預金の客にはポケットティッシュひとつ配らなくなってしまったと聞く。みんな不景気が悪い。

 

 景気が悪ければ悪いほど強いのが三大欲求の商売である。なんせ食わないわけにはいかないし、寝なかったら死ぬし、射精しなかったら眠れないのだ。したがってスーパーマーケットという施設は食料品と布団とコンドームさえ売っていれば今後共安泰である。とはいえ人口減少局面ともなると商売は厳しいわけで、人口が2割減ったら食料品も自動的に売上が2割減少、布団も買い換えペースが2割ぶん落ちて、個人的な肌感覚ではリア充しか買わないコンドームなんか人口が2割減ったら売上3割ぐらい減ってんじゃないのか。新卒のカードが切れたころはとあるコンドームメーカーの新卒採用なんかも調べてみたけれど、リクナビやらマイナビやらに出てなくて、なんというか中途採用のフォームみたいなのでお問い合わせくださいだったから見送ってしまった。リクナビやらマイナビに求人出すと100万からお金がかかるので、それすらできねえのかやっべえなあという判断である。

 

 そんなわけでスーパーマーケットも実は戦々恐々としているのだ。毎日食うものを売っていても、他所の店から広告の品でお客様をぶん取っても、未来は売上2割減なのだ。売上2割減の世界で街に笑顔はあるのか。

 

 神戸の方で物騒な"揉め事相談所"が分裂騒動を起こしているのもきっと売上の減少が根底にある。金持ちケンカせず。カネがないから揉めるのだ。きっと「だめな白い粉」とか「武器(飛び道具)」とかの商売があがったりなのだ。みんなおりこうに教育されてしまってヤクもハジキも価値が暴落してしまったのだね。

 

 おまんこ屋さんも来るべき人口2割減にむけてなにかやることはあるのかというとこれは労働集約型産業であって1人の人間が1人の人間を相手にするから店自体のダウンサイジングは必要だろうけれど取り立てて対策を打つ必要はないというのが通説である。誰の?俺の。……と思うじゃん、各個人の給料も売上の分2割が減ってる可能性すらあるわけでそうなると人口2割減の世界ではおまんこは2割引にとなるのだ。なんか変だ。人口が2割減っても給料が2割減らない人間だって居るだろうしいったいどういうことなのだ。おまんこの値段は東京証券取引所で一意に定まらないのか。

 

 いっそ貨幣を廃止して援助交際という概念をなくしてしまおう。

幸福行き

 幸福駅といえば北海道の廃線・旧広尾線にあった駅である。愛国という駅もあり、「愛の国から幸福へ」ということで、愛国から幸福行きの乗車券は縁起物として喜ばれたそうな。

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 KOTOKOの「Leaf ticket」という唄がある。諸般の事情で歌詞は書かないが、愛国からではないにせよ幸福行きのチケットが登場する。公園通りという国鉄自動車線の駅が存在すれば乗車券が発行出来たかもしれない。

 

 広尾線帯広駅から広尾駅までを結んでいた。沿線にはおそらく日本で一番有名な農園がある。とある漫画家の実家でありその作品のモデルとして、というよりノンフィクションマンガの題材としてその農場は登場する。荒川農園(仮称)っていうんだけれども。

 

 閑話休題。幸福行きのチケットを売ってくれる窓口があった時代は終わったのだ。ダブルミーニングである。「幸福行きくれ」っつったら出札窓口からスっときっぷは出てこなくなったし、この多様化社会の中、何が人々の幸福であるのかはオーダーメイドに近くなった。東京から新幹線に乗り、数時間後に降り、適当なローカル線を3本も乗り継げば東京から乗った列車に居た人間はいなくなる。誰もが目指す場所が違う時代、幸福行きの切符をくださいと言われて常備してある印刷済みのきっぷをハイどうぞと差し出してオシマイというわけにはいかない。

 

 北海道旅行してえな人の金で。

レコードの針が飛ぶ

 最近レコードの針が飛ぶと言っても通じないそうですね。でもCDの音飛びっていうのはありますから円盤と音飛びは永遠の課題と言えそうです。今日は音飛びの話。みなさまはCDを買ったり借りたりしたらどうしますか。私などもう音楽はアップルに魂売り渡してるのでとりあえずiTunesに読み込ませるのですが、これがまたよく音飛びするんですわ。安物のCDドライブ使ってるのが悪い?うるせえ。コレについては多少効果のある対策がありますのでご紹介。

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設定から

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インポート設定を開いて

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「エラー訂正を使用する」にチェックを入れて、OK。

 

 これだけで音飛びが格段に減ります。ただし、インポートにかかる時間が5倍ぐらいになります。なんでやねん。とはいえ、レンタル屋に返した後で音飛びが発覚する徒労感よりは時間かかるほうがマシですゆえ。

 

 

 脳みそのエラーも訂正できたらいいなあ。

西村賢太『苦役列車』

 平素より自ら身銭を切って借りている部屋が文庫本で占領されるのを厭がってここ数年はなるべくKindleで本を買っていた私が久方ぶりに本屋で文庫本を買ってしまった。

sasamatsu.hatenablog.com

 

 なんでも「ナカイの窓」という番組で西村賢太石田衣良らと出演し、過激な発言をしたそうで、webにそういう記事が載っていて会社で昼休みに読んだら「これは今日読むしかねえ!苦役列車!西村!新潮文庫!」とだけメモを取り、残業社畜は閉店直前の書店へと駆け込んだ。

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 なんでもこれが私小説だというから驚きである。ここまでしっかりと人生のレールを敷いてトコトコと走ってきたような私めには日雇い労働で生計を立てる主人公(≒筆者)のような生き方が「こわい」のだ。人生のレールとは言ってもせいぜいが37 kgレールで最高時速65 kmのようなレベルであり、東大卒の官僚のように60 kgレール上を高速鉄道がヒュンヒュン行き交うような人生のレールではないのが悲しいところだ。適材適所の精神で鉄道不毛地帯に列車を走らせよう。どうでもいいけど新幹線というのは原則として上下線間に障害物を置かないのだそうな。三島駅とか名古屋の車庫線みたいなのは例外なのであろう。

 

 さて、本文の内容に触れるとネタバレになってしまうしなにより400円の薄い文庫であるから買って欲しいしなんなら貸す。では何に触れたいかというと巻末の解説である。解説者は石原慎太郎。そう、我々きもおたく共からエロマンガの絵に描いたおまんこすらも召し上げた*1憎き元東京都知事だ。ほんのちょっぴり本文内容に触れるが「"こんな"主人公でも女と同棲していた時期があって"本番ありの安買淫"に通っている」のだから実在おまんこ派の石原慎太郎が解説をするのは理にかなっているのかもしれない。なに、同棲イコール性行為というのはいささか短絡すぎやしねえかって?知り合いの同棲宅、いわゆる愛の巣をこれまで複数訪問した際には例外なく無造作に避妊具の紙箱が転がっていたし、あんまり短絡的でもないだろう。私としては経口避妊薬を使っているから避妊具の紙箱が転がっていないような"愛の巣"とやらもお目にかかってみたいところではあるが。この中出しキチガイめ、このこの、と糾弾する用意はある。無論このブログはフィクションである。フィクションでもモデル問題は存在するから訴えられないラインを見極めなければならない。

 

 閑話休題。石原の慎ちゃんが書いた本書の解説である。解説にはこうある。

 

 西村氏の場合、彼の作品の根底を支えている貧困という主題が、氏が売れっ子になっていく過程で、つまり裕福になることで阻害され、作品の魅力を殺いでかかる危うさが待ち受けているかも知れない。

 

 ははあ仰るとおりで。「つまり」まで書いて補足してあって誠に丁寧な解説文だ。石原慎太郎は憎いが書く文章はまともかよ。「坊主憎いけど袈裟はナイス」の典型例だ。絵に描いたおまんこを召し上げた悪行は赦さぬが、人物そのものに対する評価は改めようかと思う。罪を憎んで人を憎まず。

 

 次は石田衣良の『池袋ウエストゲートパーク』が読みたい。いや、『夜の桃』とか『4TEEN』とかは読んだけどさ。石田衣良作品に登場する女性は雌の香りがして好きなのだ。

 

 退勤後に本屋さん、寄りませんか。

*1:出版業界の自主規制が強くなってエロ漫画の修正がキツくなった。絵なのに。膣内断面図は性器じゃなくて内臓だから無修正でええやろ。